桃ちゃん、こと建守桃子(たてがみももこ)さんによると、平均律の階段を初めて昇ったのは、2004年のクリスマス・イブということなので、まだ3年半のお付き合いです。平均律では2回ほど、シルバーを中心としたジュエリーの個展をしていただきました。でもずっと前から知っていたように感じさせる人です。
いつも、みていてあぶなっかしいくらい、まっすぐです。一つのことに集中している時の熱心さや、飾り気のない誠実さ、独特のユーモア精神など、周りの空気をパッと明るくする才能の持ち主。そして、とってもおしゃれ。男性にも女性にも
とても人気のある方です。今回は、そんな素敵な桃ちゃんのお話を。
☆ 別れと出発
「桃ちゃん、意外だったのは、子供の頃からジュエリーの世界に関心があったわけでなく、ジュエリーアーティストだったお父さん(建守秀二氏)が亡くなってから勉強を始めたということですが」
「そうなんです。子供の頃は、母が外に働きに出ていて、父が家の工房で仕事をしていた、ということは、自然なこと、当たり前のことで・・意識していなかった。どちらかというと、作業の邪魔をしていたかも」 いつも家にいる優しいお父さんが、ジュエリー業界では
とても有名な、才能溢れる存在とは知らなかったという桃ちゃん、両親にかわいがられて、のびのび育ちます。家族一緒に、上野の美術館に行ったりはしていたものの、ジュエリーに関しては、全く関心がなかったそうです。
「でも、綺麗なものが好きとか、興味は?」 「音楽が好きでした。エレクトーンをやっていたんです」 結婚式場で、エレクトーンプレイヤーのアルバイトをしていたことがあるそうです。学生時代は、英語を専攻し、三菱系列の会社でOLになった彼女は、普通に友人と遊び、普通に恋愛し・・・
両親は普通を望んでいたと言います。きっかけはお父さんの死。 「臨終の瞬間、手を握っていたんですけど、痛いほどぐっと力が入ってきたんです」 「悲しいという感じでなく?」
「ええ、それをきっかけに、ジュエリーをやりたいと思い始めたんです」
新しい命を吹き込まれた彼女は、お父さんの友人のジュエリーデザイナー/
高田昇氏から、期間限定でジュエリーの基礎を学ぶことになります。基礎の勉強をしたあと、まわり道もします。今まで父親の仕事を見ていたとはいえ、無からの出発ですから、本人が話してくださったほど、生易しい道ではなかったようです。
すぐには食べていくことなどできるはずもなく、派遣社員として働きながら勉強、という時期もありました。 「作るのが楽しい」その新鮮な気持ちが、彼女の物作りの原動力です。一回目の個展の時、店のお客様から寄せられた感想で「楽しそうに作ったのが感じられる」というのが多く、いきいきした活力が
感じられました。技術の問題は、だんだんと身についていくもの、そう感じられました。
☆ 悪女の深情け
ある時、桃ちゃんは、お父さんの友人のデザイナーの辻氏に、課題を与えられます。辻氏は、自身の描いた絵を持ってきて、それをもとに、打ち出し(金属の板を、裏、表から叩いて形を作っていく技法)で、好きなように作品を作ってごらんと言います。 出来上がった作品をみての辻氏の第一声。「うわ〜重い」辻氏は
こう続けます。「上手いし、一生懸命やったのもわかる・・・でも君、悪女の深情けって知ってる?これ、男には重いよ、気持ちが・・・作品が重すぎて、やられてしまう」
今でこそ、笑って話せるものの、その当時は、相当ショックだったことでしょう。 「はじめに人ありき、さりげなく身につけたい」辻氏のその言葉は勉強になったようです。
「でも、短期間に集中して作ったってことで、得るものがあったでしょう?」 「そうなんです、この次同じものを作ったら、もっと楽に作れる・・・」
「順番がないと出来ない。辻さん言い得て妙ですね。距離感ていうのかな、食べ物でも、恋愛でも同じですね。毎日、ご馳走だったら、たまにはさっぱりと
お茶漬けが食べたいとか。とは言っても、夢中になって何かをやる自分が好きでしょう?」 「そうですね、人は自分好きの方がいいんじゃないかなあ」 そう、客観視は必要だけど。
☆ 装飾品について
「人は何故、物を身につけるんでしょう?」 「大昔は、身を守る為のお守りであったり、権力の誇示であったようです」 「人は弱い?」
「弱いし、コンプレックスがあるから、物を身につけたり、知識を身につける」 「コンプレックス?マイナスから物が生まれるということ?」 「そんな気がします。だから身つけるものには祈りが必要だし、それを作る人は強くないといけない」
「身も心も?そういえば、桃ちゃん、今、よろいやかぶとに興味があるって言ってましたね」 「自分の内側に激しいものがあるみたいで。身を守る、そういうものに興味があります」
☆シルバーについて
学術的に・・・
白い金を意味するラテン語の(argentum)の略・Ag。 融点は961.93度。硫化により変色するが、化学的にはかなり安定で、熱や電気をよく通す。展延性に優れ、可視光線に対する反射率が、金属中最高の90%を示す為、鏡などに用いられる。
「金属としてのシルバーは白く、火で柔らかくなり、叩けば固くなる。自分の手を加えることで、薄く削ることもできる。面白い素材です。無機質な、有機質な、両方の表現ができます」
「有機的なということは、あたたかみをもつということ?」 「そうですね。両方できないといけないんです」 「技術を磨かないとね、職人さんの世界ですね」 「そう、私、職人さんて好きです」
「同感です。芸術家とよばれず、同じものを作り続けて、表に出てこない人達、昔からたくさんいたはずです。まだまだ、勉強することが沢山ありますね」
桃子さんは、現在シルバーを中心に、金や、天然石を使ったジュエリーを創作しています。「自然はそのままが一番美しい。けれど、自然のものに手をかけ、作り手の息がかかり、魔法をかけて
、違うものになっていくのが面白い」と彼女は言います。 創作の中で「切子ジュエリー」は彼女独特のものです。友人の切子の作家さんから譲ってもらった、作品の残りのガラスを切り直して削り、石にみたてて、シルバーの枠を作ってペンダントや指輪を作っています。光があたると、天然石と見まごうばかりの
美しい作品達。大変もろい素材なので、形を作るのが大変そうです。 土の中から生まれたいろんな素材の研究・・本人が言うように「技術を磨く、ちゃんと見る、ちゃんと聞く」 これからの課題のようです。
☆引き合わせ
昨年、平均律での桃ちゃんの2回目の個展の時、私はふと、原宿平均律時代に人からいただいた、ペンダントを身につけました。何年も引き出しの中で眠っていたものです。それを見た瞬間の桃ちゃん、 「それ、見せていただけません?」
なんと、桃ちゃんの父君の作品でした。彼女は幼い頃、それを作るお父さんの姿を見ていたのです。建守秀二氏は、彼女にジュエリーへの道を開き、初個展をさせるべく、平均律に出会わせ、気づかせる為に、こんな粋な計らいを・・・。それも焦らずゆっくりと。存命中は感性の贈り物だけを・・・技術は自分で磨くものだからということでしょうか。
一人行動が好きで、一人旅をよくするという桃ちゃん。一人で動くと沢山の発見があります。物を作る人は、技術を磨くことと同時に、心が豊かであること、大事なことです。桃ちゃん、あなたのこれからが楽しみです。
最後に、私が好きな、建守氏のエッセイをのせます。
☆「個性について」・建守秀二氏の言葉から
人が個性的であるということは、無理に他人と違ったことをしたり、まして突飛な格好をしたりすることでは決してない。それぞれの場所や条件で生まれた人が、その人なりを十全に生ききった結果が個性なのである。人は個性的であらねばならないと言うのは嘘で、
むしろ、人はその人なりに生きると、結果として、悲しくとも個性的にならざるを得ないといのが本当であろう。
☆建守桃子さんには、来年も個展をお願いしています。お楽しみに!
6月7日から開催の「舘野鴻 絵画講」にも植物画を出展します。ぜひごらんください。
☆ 桃子さんのHPはこちらです! |